雲の上から

雲の上から見下ろされたい

殺風景(2014.5.17 18:00開演 シアターコクーン)

2回目の殺風景。今回は全体が見渡せる席だったこともあり、ストーリーの繋がりをわかっていることもあり、双眼鏡持っていったこともありで、1回目に感じた「いったいなんだったんだ?」感は消え、かなり分かりやすい話に思えた。

とは言え思いを巡らす余地は沢山あったので、印象に残ったことを書いておく。

・缶蹴りの必勝法

唐突にマリが国男たちに缶蹴りの勝ち方を教え始める。曰く、鬼を可哀想に思って物陰から飛び出すから負ける。じっと息を潜めて隠れていれば絶対に負けることはない。

缶蹴りの話はもう一度出てくる。殺人を犯し、国男の到着を待つシーン。なぜかマリと子供たちは缶蹴りをしながら待っている。何度やってもマリの負け。長男に缶を蹴られてしまうのだ。

「昔は強かったんよ」と語るマリ。マリは国男を思って飛び出して鬼になってしまったのだ。そしてもうそこから抜け出すことは出来ない。

・炭坑に落ちていた財布

国男は炭坑に財布が落ちているのを見つけ、「あ、財布」と口に出すが、ものすごい勢いで先輩坑夫が財布を奪い取ってしまい、「先に拾ったんだから俺のもんだ」と言われる。

国男も譲らず言い争う2人。結局2人で分け合うことで決着がつくが、開いた財布には何も入っていなかった。

これは間違いなく現金2千万など入っていなかった金庫の隠喩だろう。大倉孝二さんのコミカルな動きと独特の間が笑いを誘うシーンだが、後に起こる笑えない事件を暗示していると思うと気味が悪い。

・オセロゲーム

稔に殺されることになる幼なじみが食卓で語るエピソード。稔がオセロを分解して裏返しても黒しか出ないようにしてしまったので勝てなかったという話。これも笑いが起こるシーンだが、裏返しても裏返しても黒いというのはいかにも薄気味悪い。

・ワンピースに留まったカナブン

車中で姉からの折り返し電話を受ける稔。稔が切り出したのは人を殺した後とは思えない無邪気で他愛のない話だった。ショッピングセンターでエスカレーターの前に立っていた女の人のワンピースのボタンが奇麗だなぁと思っていたら、ボタンではなくてカナブンだったんだよ、という話。しかもオチを先に言ってしまうという計算の無さ。

このエピソードは「きっとこういう意図があるに違いない!」と思える確固たる理由は思いつけていないのだけど、何となく連想した2点を書いておく。

一つは単純に稔の屈託の無さを印象づけるエピソードとして。稔の心情が察せられるエピソードはこの場面以外には無いと言ってもいい。父親に「俺はお前たい」と刷り込まれ、目立った葛藤も見せず淡々と人殺しをする青年としてしか描かれていない。このエピソードを聞いて初めて、血の通った人間として感じられた。

もう一つは思い込みがふとしたことでバラバラと崩れ落ちるエピソードの一つとして。一見した見かけと、蓋を開けた中身は一致しない。これはこの舞台全体に通底するテーマなんじゃないかと思った。金庫の話しかり、財布の中身しかり、殺風景なようでどろどろとした大牟田しかり、「あんたらの求めるような実際はどこにもない」という宣言しかり。

大牟田

舞台はほぼ全編大牟田弁で展開される。独特のアクセントと「〜たい」「〜と」という言い回しに最初は何を言っているのかわからなくなる。けれどその分集中して台詞を聞き、意味を咀嚼するようになる。異化ってやつ。

それからやはりその地に住む人しか使わない言葉なので、すごく排他的な印象を与える。東京から来た刑事が登場し、標準語で喋り出すと余計にその印象は強まる。血縁、地縁、全て閉じた腐った世界で展開される馬鹿馬鹿しい殺人の物語。